NEW ENTRY
(12/31)
(12/31)
(12/31)
(12/02)
(11/09)
[PR]
24 DRIVE②
「駅前の駐車場に、車停めてある。多分、車なら一時間くらいで着くんじゃねぇかな」
菱和は煙草を喫いながら歩いた
ユイはその後をついて行く
ライヴハウスから駅までは15分ほどの距離だった
駐車場には車が2、3台しか停まっており、菱和はそのうちのいちばん端にある車に真っ直ぐ向かった
鍵を開け乗ろうとしたが、ユイは車を見つめて立ち止まっている
「何してんだよ、乗れよ」
「あ、うん‥‥これ、菱和の車?」
「ああ」
ユイは不安そうに、助手席に乗り込んだ
静まり返る駅前に、エンジン音が響き渡った
菱和は何の躊躇いもなくハンドルを握り、車を発進させた
信号で停止した際、ユイはおずおずと菱和に尋ねた
「‥‥あの。菱和、もしかして無免許‥?」
菱和はユイを一瞥すると、財布からカードのようなものを取り出し、ユイに手渡した
「──────‥‥は!!!?」
ユイの声が、狭い車内に響いた
ユイが渡されたのは運転免許証だった
そのことにも驚いたのだが、記載されている生年月日が自分とは2年違うことに気付き、更に驚く
「‥‥‥‥‥‥年上、だったの?」
生年月日が2年違う───つまり、菱和はユイよりも2歳年上だった
その事実に驚きを隠せない様子のユイを、菱和はいまいち解せないでいた
「あれ、云ってなかったっけか」
「‥‥今初めて聞きました」
「そっか。悪い。てっきりもう話してたと思ってた」
菱和は信号が青に変わったのを確認し、アクセルを踏んだ
「ううん‥‥‥‥てか、今何歳?」
「19。っつーわけで、無免許じゃないです。法律は犯してません」
「そ、そーですね‥‥」
「‥何で敬語なの」
「いや、だって、年上だから」
「年上ったって2歳しか違わねぇし、同じ高校2年生だろ」
「そう‥‥ですけど‥」
ユイはすっかり畏縮してしまった
元々の性格もあるのだろうが、同級生と比べても菱和は一際大人びた雰囲気がある
───今19、てことは、来年はハタチ‥‥
そう考えると、余計に菱和が大人びて見えた
「‥‥今までの数々のご無礼、お許しください」
ユイは心から敬意を払って云った
ガラにもなく畏まった様子に、菱和はくす、と笑った
「いえいえ。‥‥でも敬語は要らねぇ。今まで通り、普通に接して」
ほぼ毎日一緒に学校生活を過ごしているのにも拘わらず、滅多に見ることの無い菱和の笑顔
自分とは違い小さな笑みだが、それでもその表情にドキリとする
「はい‥‥、じゃなくて、うん。わかった」
免許証の顔写真は、普段と変わらない無愛想で無表情な顔
髪は、今よりも少しだけ短い
───もっと、笑ってくれれば良いのにな
ユイは免許証を見つめながら、そう思った
***
菱和が車を走らせてから30分ほど経った
辺鄙な片田舎から、栄えた街並みへと景色が移り進んでいく
「‥‥そーいやさ。バンド名、何ての?」
「俺らのバンド?“Haze”だよ!」
「‥“Haze”?」
「うん!H-a-z-eで、“Haze”」
「‥‥、『Purple Haze』の“Haze”?」
「そう!流石、よく解ったね!」
「由来も『Purple Haze』から来てんの?」
「そんなとこかな。あっちゃん‥‥ああ、もう一人のギターがさ、ジミヘン大好きで」
「渋いな、それ」
「でしょ?ふふ‥‥。ジミヘンてさ、薬やってたんじゃないかって云われてるじゃん。俺らも“薬がキマるみたいに滅茶苦茶楽しいバンドやろうぜ”って意味みたい。まぁ、完全に後付けだと思うけど。ジミヘンに肖りたかったのと、英語で短い単語っていうのが一番の理由かな。薬なんてやったことないし、どんだけ楽しくなれんのかわかんないけどさぁ‥‥」
「‥‥楽器弾いてたら、変になる時ねぇ?」
「ん?」
「何つーか、気分が昂ってくるっていうか‥‥」
「あ、なんかわかる。楽し過ぎて変な気持ちになってくる!ワクワクするっていうか、ザワザワするっていうか‥‥何とも云えない気分になってくる」
「それに似た感覚だとは思うんだけどな。多分もっともっとヤバいもんなんだろうけど」
「そうなのかなぁ。そんな気持ちになれるなら、ちょっとやってみたいかも」
「‥‥帰ってこれなくなるよ」
「それは‥‥困るね。“ダメ、ゼッタイ”だね」
「そうだな。絶対駄目なやつだな」
無口で無愛想で無表情
だけど、親切で優しい“イイ奴”
自他ともに認める子供っぽさ全開のユイとも菱和は対等に接しており、相手にもそれを望んでいる
その事実に嬉しさを感じたユイは、終始ニコニコしながら菱和と話を続けた
***
「あ、あの公園で降ろして」
「自宅まで行かなくて良いのか?」
「うん、大丈夫!」
ユイは自宅の近所にある公園を指した
時刻は0時を少し過ぎていた
菱和は公園の横に車を横付けして停車させる
車を降りると、ユイは頭を下げて菱和に礼を云った
「ほんっっとに有難う!助かりました!」
菱和は少しこくん、と首を傾げ、財布から何か取り出し、ユイに差し出した
「ん」
「ん?」
「取り敢えず5枚あるから、時間あったら誰か誘って観に来いよ」
ユイが受け取ったものは、ライヴのチケットだった
ステージに上がってベースを弾く菱和が見られる───想像しただけで、ゾクリとする
「‥有難う、絶対観に行く!あ、チケット代幾ら?」
「要らねぇ。どうせクソみてぇなライヴだし」
「いやいや、そういうわけにはいかないっしょ!5枚も貰っちゃったし‥‥」
「いいよ。この前ジュースくれたじゃん、ガッコで」
「ジュースくらいじゃ足らないよ‥‥申し訳なさ過ぎる」
ユイは唇を尖らせ、困ったような顔をして唸った
その様子を見た菱和は、少し口角を上げた
「‥‥じゃあさ、俺をバンドに入れてくれたら、それで良いよ」
「───え?」
「‥約束したろ、今のバンドやめたら、お前らのバンド入るって。このタイミングで抜けようって、決めてたんだ。‥‥返事遅くなって悪かった」
ユイは目を瞬かせた
菱和は自分がバンドに加入することとチケット代を相殺するつもりだったのだが、ユイにとって“ベーシストである菱和”はチケット代とは比べ物にならないほどの価値がある
ずっと待ち侘びていた、菱和のベース
あのベースが、自分達の音に加わる
想像しただけで、鳥肌が立つ
「‥‥ほんとに、それで良いの?」
「ん」
「チケット代以上支払いたい気分なんだけど‥‥」
「‥‥、俺にそんな価値あるか?」
「ある!めちゃくちゃある!あー、早くライヴ終わんないかなー!‥‥って、そんなこと云っちゃ失礼か‥」
「別に。実際早く終わって欲しいし」
「そうなの?てか、俺も早く菱和とライヴやりたいなぁ‥‥ふふ」
「‥‥そだ。いちお、連絡先」
菱和はポケットから携帯を取り出した
「‥そういや、番号交換してなかったね!」
「ああ、ガッコじゃ不便なかったから気付かなかった」
ユイは菱和の携帯を受け取り、自分の電話帳に菱和の番号やアドレスを入れた
すかさず電話を掛けると、菱和の携帯が鳴る
ワンコール鳴ったところで電源ボタンを押し、ニコッと笑いながら携帯を翳した
「それ、俺の番号!」
「‥‥ん」
ユイの番号を登録し、菱和は車に乗った
「じゃ、また」
「うん!ほんとにありがと!気をつけてね!」
寝静まった住宅街に、車のエンジン音が響く
ユイは貰ったチケットを握り締め、車が見えなくなるまで菱和を見送った
PR
- トラックバックURLはこちら
