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23 DRIVE①
学校祭が終わると、校内は一気に意気消沈する
学生の本分である勉学に励むことは生徒の本来のあるべき姿だが、学校祭の後であっては頗るやる気が起きない
ユイは頬杖をつき、ぼーっとしながら授業を聞いていた
教科は英語
嫌いではないのだが、教師の言葉は右から左へと流れていく
「じゃあ、この文を‥‥‥‥菱和。解きなさい」
教師が菱和を指した
菱和は怠そうに席から立ち、黒板の前まで歩いていった
クラスメイトたちは、一斉に菱和に注目する
チョークの音がカチカチと教室内に響く
スラスラと英文を訳していく菱和
書き終わり、チョークを戻して、怠そうに席につく
「うん。ほぼ完璧だな。少し難しい問題だったけど、良く出来てる」
教師は菱和に感心する
室内の生徒たちは、驚きを隠せなかった
当然、ユイも驚いていた
───菱和って、頭も良かったんだ
益々“不良”からは程遠い菱和の印象が植え付けられた
***
屋上で過ごす、いつもの昼休み
ユイと拓真と菱和は、いつものように談笑に耽る
「菱和って勉強も出来るんだね。知らなかった」
「実はガリ勉タイプ?絶対そうは見えないんだけど」
「‥‥うちでは特に何もしてねぇけど」
「塾も行ってないの?」
「ああ」
「マジかよ‥‥ほんとに何者なの?菱和って」
「‥‥、別にフツーじゃね?」
「フツーじゃないよ!俺先生の云ってること殆どわかんないもん!」
「そりゃーおツムの出来からして違うんですな。ほーんと、たけにいの弟とは思えない」
「うわ。またバカにされた」
「‥‥そういや、夏休みは実家帰んの?」
「いや。ちょっと顔出すくらい」
「あ、もしかして短期バイトとかするの?」
「‥まぁ、そんなとこ」
「そっかー。一緒に海とか行きたかったなー」
「俺も、またセッションでもしたかったな」
「それも良いね!菱和、また今度一緒にやってくれる?」
「ああ」
「やった!じゃあ、これも約束だね!」
「ん?これ“も”?セッション以外にもなんかあんの?」
「え?‥‥まだ拓真には内緒!ね!」
ユイは菱和を見て、同意を促した
菱和はそれに答えるように、拓真の顔をちらりと見て何度か小さく頷いた
「え、何それ‥‥なんか怪しいー‥‥」
菱和が加入を快諾した件を、拓真はまだ知らない
ユイは、菱和が現在のバンドから正式に脱退してから改めて拓真とアタルに話すつもりでいた
「おーいたいた。3人お揃いでちょうど良かった」
上田が屋上に入ってきた
軽く手を上げて、3人に歩み寄る
「上田。どしたの?」
「良かったら行かねぇ?」
上田はライヴのチケットを差し出してきた
「夏休み中なんだけど、俺の知り合いが出るんだ。チケット代は要らないとさ。俺行けないから、誰か行かねぇかと思って」
「おお!ラッキー!行く行くー!」
「あー、俺この日駄目だ。バイト」
「あっそぉ。菱和は?」
「俺も行けねぇ。悪い」
「何だそっかー、残念だな。じゃあユイ、俺らの分まで満喫してきてよ」
「うん!有難う!一人で知らないとこ行くの楽しみー!」
ユイは上田からライヴのチケットを貰った
浮き足立つユイを他所に、菱和はもうすぐ始まる楽しい筈の夏休みを、到底“楽しみ”だとは思えなかった
***
「はー‥‥どーしよ‥‥」
夏休みに入ってから一週間ほど経ったとある日
ユイが上田から貰ったチケットの日付と同じ日
楽しみにしていたライヴ
一人で知らない土地へ行くワクワク感
それはこの当日、見事に打ち砕かれた
ライヴハウスの場所を事前に調べ、ライヴの時間に間に合うように電車の時刻を逆算して調べた
2回ほど電車を乗り継ぎ、目的のライヴハウスを目指して歩いていた
ところが、ユイは迷子になった
目的地はユイたちの住む街と比べると住宅街よりも田圃の方が多いような田舎街で、特に目印になりそうなものも無く、更には土地勘も全く無い
漸くライヴハウスを見付けたときには、既にライヴは終わっていた
入り口のシャッターは閉められており、辺りは閑散としていた
時刻は間もなく23時
仕方なく帰ろうとしたユイ
だが、財布の中は電車賃程度しかない
最終バスが21時くらいで終わるような片田舎では、終電も既に出てしまっている
タクシーに乗るお金もない
そして、歩いて帰るには遠過ぎる
───俺、何の為にここに来たんだろ‥‥
ユイは閉められたライヴハウスのシャッターを恨めしそうに眺めて、その場にしゃがみこんだ
ふと空を見上げると、星が沢山見える
自分の住む街以上にネオンの少ないこの場所では、空は大きく、星は一層光って見えた
今のユイには、それすらも恨めしかった
「───石川」
ユイは、名前を呼ばれてはっとした
声のする方を見ると、菱和がいた
何故こんなところにいるのか、全く想像がつかなかった
だが、知らない土地で知っている人間に出会えたことは、ただただ心強かった
「‥‥菱和!‥まさかこんなとこで会うなんて!」
「そりゃこっちの台詞だよ。何してんの、こんなとこで」
「あー‥‥うん。夏休み前に上田に貰ったチケット、ライヴ観に来たんだけど、道に迷っちゃって‥‥折角ここ見付けたと思ったら、もうライヴ終わってて‥」
「‥‥で?」
「終電ももう行っちゃったし、タクシーで帰るお金も無いから‥‥途方にくれてたとこ」
またしても、菱和に恥ずかしいところを見られてしまったユイは照れ笑いをした
「菱和は?何してるの?こんなとこで」
「‥‥お使いの帰り」
「お使い?」
「母親の知り合いがこの辺住んでて『荷物持ってけ』って頼まれたんだけど、そこで『飯食ってけ』って云われて、だらだらしてたら遅くなっちまって‥‥」
「そっかぁ。‥‥なんか、すげぇ偶然だね!俺が道に迷って、菱和が知り合いんとこで飯食ってなかったら会えてなかったもんね!」
「まぁ、そうなるな‥‥で、どうすんの?これから」
「うーん‥‥どうしようかなぁ‥‥って、どうしようもないんだけど」
「‥‥送ってってやるよ。足あるから」
「え?‥‥でもわざわざ悪いし、大丈夫だよ。始発待ってるから」
「始発って‥あと何時間あると思ってんだよ。‥‥ついて来な」
菱和はユイの腕を掴み、立ち上がらせた
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