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107 JOY
ぴんと張りつめた冬の朝の空気
その冷気が室内にも入り込む
目を覚ますと、自分の手が大きな菱和の手に包まれているのがわかった
菱和は肩から布団を被り、後ろからユイを抱くようにし壁に凭れ掛かっている
ユイはすっぽりと菱和に収まっており、身体にはしっかりと毛布が掛けられていた
───掛けてくれたん、だ‥
「───‥‥」
見上げると、ゆっくりと静かに寝息を立てている菱和の顔がある
寝惚け眼でその顔を見ていると、互いの胸の内を伝え合った日のような擽ったい気持ちになる
途端、ユイは夕べ菱和と唇を重ねたことを思い出し、ぐっと体温が上がるのを感じた
このまま顔を上げると簡単にキスが出来るほどの至近距離に、菱和がいる
くっついて過ごすことは何度もあったが、今までとはだいぶ心境が違っていた
菱和の唇の感触が残っているような気がして、ユイは自分の唇を親指でなぞった
キスをした記憶がどんどんと蘇り、心拍数が上がっていく
───‥‥‥っていうか俺、『沢山して欲しい』とか『またしてくれるか』とかめっちゃ恥ずかしいこと云ってたよな‥‥うわぁもうマジ今すぐ爆発しちゃいたい‥!
ユイの脳内は軽く修羅場と化した
今更冷静になっても後の祭りだが、やはり恥ずかしさは拭えない
じたばたしたい衝動に駆られるも、菱和を起こしてしまうと懸念し、何とか堪える
余裕など全く無かった
ただただ、受け身でしかいられなかった
弱っている自分を、支えてくれた
不慣れな自分を、受け止めてくれた
無我夢中の口付けは時折乱暴だったが、基本的にはとても優しかった
多少の息苦しさを覚えても、菱和の愛情を独り占めしていることに比べたらどうということはなかった
いっそのこと、息が止まってしまっても構わないとすら思えた
菱和と唇が重なった瞬間から、確実にまた距離が近付いた
その事実は口にするまでもなく嬉しいこと
だが、この距離感は時に菱和の足枷になるかもしれない───そう思うと、嬉しさと同様に不安も募る
それでも、菱和と一緒にいられる喜びを噛み締める
“アズと、ずっと一緒にいられますように”
余裕のない中で、ユイはそう、願っていた
───‥‥、ヒーター点けてくるか
握られた手をそっと離し、菱和の腕から抜け出そうとする
その腕に急に力が入り、ユイはぐっと引き寄せられた
「‥ぅわっっっ‥‥!!」
いとも容易く、ユイは菱和の胸に戻った
突然のことに驚き振り向くと、菱和が嗄れた声で云った
「───‥‥どこ行くん」
「あ‥‥ヒーター‥‥点けてこよ、かな‥って」
「‥‥‥‥要らねぇ。‥‥こうしてれば、あったけぇから‥‥‥」
そう云って菱和は、毛布ごとユイを抱き締め、ユイの肩に顎を乗せる
僅かに頬が触れ、少しでも首を横に向ければ唇が当たる───そんな距離
またユイの心拍数が上がったが、菱和の腕の中にいるという安心感も増していく
「‥‥そだね、‥あったかいね」
菱和の言葉に納得し、ユイは自分を抱く菱和の腕にそっと手を添えた
「‥‥‥‥目、すげぇ腫れてる」
視線を横にずらすと、菱和が半開きの目でユイを見ている
ユイははにかみ、照れ臭そうにした
「流石に泣き過ぎた、よね‥‥。ほんと、いっぱい泣いた」
「‥‥少しはデトックスになった?」
「で、と‥?」
「“解毒”。‥沢山泣いて、すっきりした?」
「‥‥、‥‥うん‥」
「そ‥‥‥‥良かった‥‥‥」
ユイを抱く菱和の腕に、力が入る
少し長い溜め息を吐き、菱和はゆっくりと目を閉じた
「‥‥もしかさ、」
「‥‥‥ん‥‥」
「アズって、低血圧?」
「‥‥んん‥‥‥‥寝起きは力全然入んねぇんだ‥‥」
「‥全然そんなことないと思うけど‥‥」
「そ、か‥‥」
力なく、捻り出すようにぼそりと呟く菱和
普段から怠そうにしているが、寝起きはより一層気だるそうにしている
互いの気持ちを伝え合った日の朝も、菱和はいつまでもうだうだとし、なかなかユイから離れなかった
寝起きの菱和は随分と無防備で───
───なんか可愛いな、ふにゃふにゃしてて。アズにもこんなが一面があるんだ‥‥知らなかった
ユイは口元が綻んだ
「‥‥‥ん‥?」
「‥‥んーん‥‥‥‥」
ユイは気持ちを悟られないよう、毛布に顔を埋め、口元を隠した
「───‥‥忘れてた」
「ん?」
菱和は徐にユイの顔を引き寄せ、目を丸くしているユイにそっとキスをした
「‥‥おはよ」
「‥‥‥は、よう‥‥」
ユイはより目を丸くし、頬を赤らめる
その顔を見て、菱和は半開きの目を細めた
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