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105 御御御付け
拓真とリサは安心してユイを託し、菱和も責任を持ってユイを預かることになった
時刻は19:00を回り、支度を終えたユイは菱和と共にアパートに向かう
日没から3時間あまりが経過していることもあり、室内はひんやりとしていた
菱和はすぐにヒーターを点け、寝室から持ってきた毛布をソファに座るユイの膝に掛けた
部屋着に着替え、キッチンで煙草を一本喫うと、ユイの横に座った
「なんか食う?」
「‥‥‥んーん‥‥あんま食欲ないや」
いつもなら何かしらリクエストしてくる筈が正直に申告してきたということは、本当に食欲がないのだろう
菱和は、へら、と笑うユイの頭をくしゃくしゃと撫でる
「‥わかった。待ってな」
キッチンに向かう菱和
程無くして、カチャカチャと調理する音が聴こえてくる
ユイは様々なことに申し訳なくなり、膝を抱え込んだ
いつもなら、楽器を触ったり音楽を聴いたりして待っている時間だが、今はそんな気が起きない
何も映し出されていないテレビの画面を、ただぼーっと見つめていた
「召し上がれ」
菱和の声にはっとしたユイの前には、温かい味噌汁が入った椀が置かれていた
出汁から炊かれた味噌汁の具材は、4種類ほどの茸
よくよく見ると、大根おろしが浮いている
「食欲ないときは、美味そーーーな味噌汁想像すんのがいちばん」
ユイはきょとんとし、菱和を見上げた
「‥‥っていうのは、母親の持論。でも、どんだけ食欲なくてもあったけぇ味噌汁想像したらマジで腹減ってくんだわ。‥食えなさそうなら無理しなくて良いからな」
菱和はユイの横に座り、味噌汁を啜った
「‥ん。んまい」
納得の出来だったようで、頷きながら軽く舌なめずりをする菱和
目の前には、出汁の香りを含んだ湯気の立つ味噌汁
食欲が刺激されたのか、ユイは徐に椀を手に取り一口啜る
ふんだんに使われた茸の出汁がよく出ており、胃に優しい大根おろしが程よい食感
五臓六腑にじんわりと沁み、心まで落ち着いていく
「‥‥‥‥美味い‥‥ほんと美味い。ほっと、する‥‥」
「そっか。‥‥茸、食える?」
「うん。‥いっぱい入ってる、ね」
「具沢山の方が美味いんだ、茸は。椎茸としめじと舞茸となめこ入れた」
「‥‥全部好き」
「そりゃ良かった。食えそうなら食いな」
「‥うん」
食欲不振な胃向けの食事を作り、食欲さえ沸かせてしまう───菱和の料理の腕に感心すると共に、沢山の優しさを感じる
“お袋の味”を知らないユイにとって、菱和の味噌汁が“お袋の味”となった
***
味噌汁だけでも、ユイの胃は充分に満たされた
脱衣所を借り、拓真が持たせてくれた部屋着に着替える
「‥‥風呂入るか?」
キッチンで煙草を喫っていた菱和が、ひょこっと顔を覗かせる
「‥‥今日は、いい」
「そ。‥‥明日でも、一緒に入る?」
「いっ‥しょ、て‥‥!」
「背中流してやるよ、洗髪もするし」
「い、いい!いいです!遠慮しときます!」
「‥‥‥‥、そんなに俺と風呂入んの嫌?」
「い、嫌ってわけじゃないけど‥」
「‥‥そっか」
慌てふためくユイを見られたことで、菱和はくすくすと笑った
「少し早いけど、布団入るか」
「う、うん」
菱和は火消しに煙草を挿し、ユイに手を差し出した
「行こ」
そっと手を重ねると、ぎゅ、と握られる
ユイは手を引かれ、寝室に向かった
***
布団に埋まる2人
夜の寒さで室内が冷やされるも、互いの温もりがあれば何も要らないと思えた
ユイは腕枕され、菱和の心臓の音を静かに聴いた
「‥‥‥アズ‥ありがとね、ほんとに」
「んーん。‥‥俺がお前と一緒にいたかっただけだから」
菱和はユイを抱き寄せ、ゆっくりと頭を撫でる
今日一日で目まぐるしく色々なことがあったが、この腕の中ならば安心して眠れそうだ
そう思うと、急激に眠気が襲ってくる
「‥疲れたろ。ゆっくり休みな」
「‥‥うん‥‥‥ごめん、先に寝ちゃいそ‥‥」
「ん。‥おやすみ」
菱和は、ユイが眠りに就くまで頭を撫で続けた
“護りたい”と想ったその時から、何があっても寄り添うと決めた
心が壊れかけている今───願わくばこれ以上苦しむ姿を見たくはないが、例え完全に壊れてしまったとしても、決して離しはしない
───‥‥マジで“毒され”過ぎてんな
ユイへの好意をはっきりと認識しているが、自分が想像しているよりもその感情はとてつもなく深いのではないかと、菱和は感じた
奇妙な感覚に襲われ、悪戯にユイの頬を少し抓ると、既に寝息を立てているユイは僅かに唸る
強烈なストレスを感じ、過呼吸や失神をしたとは思えないほど、安らかな寝顔
「‥‥‥可愛い、な」
無性にキスをしたい衝動に駆られた菱和は、ユイの顎を少し上げ、顔を近付けた
「‥‥‥‥、」
───幾ら寝てるとはいえ‥‥正に“寝込み襲う”みてぇで後味悪くなりそ‥やっぱ止めとくか。でも、せめて‥‥‥
菱和は何とか衝動を抑え、無防備に自分の腕の中で眠るユイの頬に軽くキスをした
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