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82 Sent på natten
久々に同じ曲を奏でた2人
共に演奏するのは、やはり楽しくて仕方がない
早く、メンバー全員で一つの曲を奏でたい
その時間は、近い将来必ず訪れる
ユイは名残惜しみながら楽器を片付け始めた
ギターをクロスで丁寧に拭き、大事そうにケースに仕舞った
「‥‥また今度ね」
にこりと笑ってそう云い、スタンドに立て掛ける
菱和もベースを片付け、ユイの頭をぽん、と叩いた
「楽しかった、な」
「‥うん!またやりたい!」
「そうだな、またやるか。‥‥‥今、身体拭いてやるよ。汗かいたろ、着替えもしてねぇし」
そう云って菱和はユイの手を引き、リビングへ促す
ユイはそわそわしつつ上に着ているものを全て脱ぎ、ソファに座った
菱和は着替えを持ってきて、ソファの傍らに置いた
水面器に少し熱めの湯を張り、タオルを浸して固く絞ると、ゆっくりとユイの背中を拭き始めた
細く色白の肌は、まだ熱が残っているのか少し火照っているように見えた
見た目よりもずっと小さな背中が、そこに在った
この身体で、只管自分を待ち続けていたユイ
今度からは、絶対にそんなことはさせない
“護りたい”と、今一度強く思う
「お前、ほんと小せぇな」
「う‥‥‥、‥余計なお世話だよっ」
「すいませんでした」
「俺にしてみればアズとかあっちゃんの方がおかしいよ。何だよ、180㎝って。化け物だよ、化け物」
「‥‥化け物って。‥お前は幾つあんの?」
「168、だったかな。最近は測ってないけど」
「‥‥まぁ、でかけりゃ良いってもんでもねぇしな」
「そうそう、チビはチビなりに良いこともあんだよ!」
「例えば?」
「え?う、うーん‥‥‥えーとね‥‥‥‥‥」
「‥‥ま、良いや。何でも」
「‥‥む‥」
「‥‥‥どっちにしても、俺よりでかくなくて良かった」
「何で?」
「めちゃくちゃ抱き締め易いから」
「‥‥‥‥‥‥」
気化熱で、身体が冷える
それでも、ユイの体温は平熱より高めだ
熱の所為なのか、菱和に云われた言葉の所為なのか、将又その両方なのか───
自分が裸の身体を晒していることが、余計に恥ずかしくなってくる
そんなユイの気持ちを知る由もなく、菱和は首回りや腋、腕、腰回り、全て丁寧に拭いていく
一度濯ぎ絞ったタオルを、ユイに手渡した
「前は、自分でやんな」
「う、うん‥‥」
「‥‥何だよ、俺がやっても良いの?下も全部脱ぐことになるけど?」
「自分でやります」
「遠慮すんなよ。タオル貸してみ、早く脱ぎな」
「自分でやります!!」
「あっそ。‥‥終わったら全部ここに置いといて良いから。俺シャワーしてくるわ、も少し待ってて」
「‥‥うん、わかった」
受け取ったタオルをくしゃくしゃにして赤面するユイを残し、菱和は脱衣所に向かった
菱和がシャワーを浴びている間、ユイは清拭の続きをした
用意して貰った部屋着に着替え、洗濯物と洗面器、タオルを洗面所に下げに行く
洗濯機の側に、ユイのパーカーとジーンズが畳んで置いてあった
───‥‥寝てる間に、洗っててくれたのかな。そういえばスニーカーもヒーターの側に置いてあった‥‥‥‥
シャワーの流れる音が聴こえる
浴室をちらりと見て、ユイはリビングに戻った
ソファに凭れ掛かるように座り、すっかり冷えてしまったホットかりんを一口飲んだ
昨日からずっと、至れり尽くせりだ
食事も清拭も体調管理も、自分がこの部屋に入った瞬間から、全てに於いて菱和は手を抜いていない
『好きだから』という理由だけでここまでさせてしまっていることに、何だか申し訳ない気持ちになる
じゃあ逆に、自分は菱和に何かしてあげられるだろうか
自分には、何が出来るだろう───?
───アズがシャワーから上がってきたら、そんな話でもしてみようか‥‥‥‥
夕食時に飲んだ風邪薬が効いてきたのか、ユイはソファに凭れたままふらふらと船を漕ぎ出した
***
ふと目を開けるとテレビの画面が眩しく、軽く目を擦る
「‥‥んー‥‥‥‥今何時だろ‥‥」
「‥‥1時半」
「───ぅわっ‥‥っ!!」
直ぐ横から菱和の声
ユイは思わず跳ねるように身を起こした
シャワーから上がった菱和はユイを起こすのも忍びないと思い、部屋の灯りを最小限にして深夜に放送している洋画を観ていた
ユイの膝には、毛布が掛けられている
「一緒に寝たい」と自分から云っておきながら、ソファどころか菱和にも凭れ掛かって寝ていたユイ
恥ずかしさに、また顔を赤らめた
「‥‥‥‥ごめ、ん、アズ‥‥俺‥‥‥」
「んーん」
ソファの前に置かれているテーブルに、灰皿がある
菱和も手持ち無沙汰で、キッチンから灰皿を持ってきていたようだ
無愛想に返事をし、煙草の煙を吹かす
音もなく、ただ垂れ流され続ける洋画
字幕を目で追い、何やら必死の様相の俳優をぼんやりと眺める
ユイはちらりと菱和を見た
怠そうにソファに凭れ掛かり、煙草を咥えている
───怒らせちゃったかな‥‥
ユイは軽く深呼吸をし、菱和に話し掛けた
「アズ、あの‥‥」
「ん?」
「ごめん、ね。寝ちゃって」
「別に」
「‥‥‥‥これ、何てやつ?」
「知らねぇ。点けたらやってたから、ただ流してるだけ」
「‥‥、そっ‥‥か」
それ以上、会話が続かない
これ以上何を話せば良いかわからなくなり、ユイは困ったような顔をした
ふと、肩に重みを感じる
菱和の方に顔を向けようとすると、大きな肩が凭れ掛かってきた
長い黒髪が、さらりと頬に流れてくる
「アズ‥‥?」
「‥‥‥‥眠てぇ‥‥ベッドまで運んで」
「え‥‥お、俺じゃあ無理だよ‥‥‥」
「‥‥じゃあここで寝る」
「駄目だよ、寝るならベッド行こ?」
「‥‥‥‥何その台詞。‥‥誘ってんの?」
「ちっ、違うよ!!」
「‥‥‥あっそ‥」
菱和は、軽く笑った
「怒って、ない‥‥?」
「‥‥何が?」
「先に、寝ちゃったこと‥‥」
「‥‥そんなこと気にしてたの?」
「‥‥、うん‥‥」
「怒ってねぇよ。んなことくらいで怒んねぇよ」
「そ、っか‥‥てか‥何で、起こさなかったの?」
「‥‥ん?‥‥‥‥可愛かったから」
「‥‥何が?」
「寝顔」
「‥‥‥‥‥」
ユイはまた顔を赤らめた
寝顔は何度か見られているが、やはり恥ずかしくて堪らなくなる
菱和は照れるユイの頭をぽん、と軽く叩き、優しく笑った
「‥ベッド行くか。一緒に寝るんだろ?」
「‥‥うん」
煙草を火消しに挿し、立ち上がる
テレビを消し、ユイの膝に掛けていた毛布を携え、寝室へと促した
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