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39 賚
菱和の怪我も無事治り、絆創膏や包帯も取れた頃
菱和のベースを加え、“新生Haze”はマンスリーライヴに出るべく週に2回程度の割合でsilvitのスタジオで練習に励んでいる
アタルは予め渡しておいた譜面とCDRのコピーを広げながら、菱和に尋ねた
「渡しといた譜面、見たか?」
「うん、何曲か練習してきた」
「お、どれだよ?」
「“RED SILK”と“Knife”、あと“ROLEX”かな。CDも聴いたけど、この3曲はすげぇ気に入った」
菱和も譜面を広げて、“Haze”のオリジナル曲を眺めた
菱和が挙げた曲は、ベースとドラムが目立つ重い楽曲ばかりだった
「‥‥‥‥お前、センス良いなぁ」
「俺も“RED SILK”めちゃ好きなんだよねー。気が合いそうで安心した。良かったじゃーん、作曲者」
拓真がハイハットを踏んで、アタルを称賛する
「んっふっふ。んじゃ、その3曲中心に演るか」
「おっけー!」
「ひっしー、いきなり合わせても大丈夫か?」
「‥‥多分」
「ま、入れそうなら入れよ」
初めてフルメンバーで合わせる“Haze”の音
ユイはわくわくしながらピックを構える
拓真のカウントが入り、それぞれがタイミングを合わせて最初の一音を出す
突然、金属音が鳴った
ユイのギターの1弦が切れた音だった
「あ」
「──────てんめえぇぇ!!!」
アタルは猛獣のような目でユイを睨み、怒鳴り散らした
「仕様がないじゃん!!切れやすいんだから!!」
「とっとと張り替えやがれ!そのレスポール、スクラップにすんぞ!!」
アタルは苛つきながらアンプに腰掛けた
拓真がアタルを窘める
「まぁまぁ。よくあることでしょ」
「そうだけどよ‥‥いっつも大体こいつの弦切れて演奏途切れんじゃんよ!」
「待ってて、すぐ張り替えるから!」
ユイは急いで弦を張り替える準備をした
菱和も椅子に座り、ユイが弦を張り替え終わるまでと思い適当にスラップをし始めた
「ふぅーん‥‥スラップ出来んのか」
「この程度なら」
「‥‥次作る曲にスラップ入れてみっか」
「良いねー、それ。ソロも入れちゃえば?」
菱和がバンドに加入してまだまだ日が浅いというのに、アタルは菱和ならいきなりどんな無理難題を課しても平然とやってのけるような気がしていた
「お待たせっ!やろ!!」
ユイは弦を張り終え、立ち上がってギターを構えた
「やっと終わったか」
「お騒がせしました!」
「ほいほい。んじゃあ、いくよー」
改めて、全員が楽器を構え、一斉に一つの曲を奏で始めた
***
スタジオの時間が終わり、早々に片付けを済ませて外へと出る
ユイと拓真は店内を物色し、アタルと菱和は店先にある灰皿へと向かい煙草を喫い始めた
「どうだったよ、初合わせは?」
「‥‥すげぇ楽しかった」
「だろうな。この前のライヴんときとエラい違ったぞ、お前のベース」
「‥‥‥‥そーかな」
「自覚ねぇのかよ‥‥ま、俺も楽しかったぜ。ベース入れて演るの久々だし、お前の音も気に入ったわ」
「そんなら、良かったす」
「‥‥ただなぁ、なんか違うんだよなぁ‥‥」
「‥?」
「いや、ユニゾンがよ。心なしか俺とよりもユイとの方が合うんじゃねぇかと思って。あいつにサイドばっかやらすのもカワイソウかなと思うんだけどよ。お前はどっちが良い?」
「‥‥俺はどっちでも。みんながやり易い方で」
「まぁ、まだ時間あるし、ゆっくり煮詰めてくか」
「そうすね」
煙草を吹かしながら、2人は話を続けた
「しかしよー、地味なプレイほど良い味出してんだよあのチビ」
「‥‥それは何となくわかるかも」
「あいつなかなかの変わり者でよ、丸々一ヶ月カッティングだけとかリフだけとか平気で弾きまくんだ。“変態”なんだよあいつは」
「‥‥‥‥変態‥‥」
「そ。努力してるし、元々のセンスもあるんだろうけど、フツーは飽きるだろ?飽きもせずずーーーっとそれだけ延々とやってんの。変態だろ」
「‥‥‥‥」
「ま、お陰でこっちは心置きなくソロ弾けてんだけどよ」
誉めて貶し、ニヤニヤしながらユイの話をするアタル
ユイが“変態”かどうかはさておき、菱和はカッティングの正確さや地味なバッキングにも手を抜かないユイのプレイを買っていた
初めて3人でセッションしたときにも、自分の音とぴったりと重なるギターに多少の驚きもあった
───“変態の賜物”、か
ユイの努力は演奏にしっかりと現れていて、アタルの話を聞いて菱和は尚の事納得した
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