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36 公園にて
深夜に突然帰宅した息子は、酷い怪我をしていた
顔中至るところに絆創膏が貼られ、左腕は三角巾で吊っている
話を聞けば、喧嘩をして手首にヒビが入った、と
時間が時間だったこともあり、菱和はこのままお咎め無しで済む筈は無いと思いつつ一旦自室で眠った
案の定、朝になってから母親に小言を云われた
それでも、小言程度で済んだことを感謝し、弁解も謝罪もした
母親は特に怒った様子もなく、リビングのソファにだらしなく座っている菱和の周りで掃除を始めた
忙しなく家事に勤しむ母親の姿を、菱和はぼんやりと見ていた
「‥‥なんか手伝おうか」
「何云ってんの。怪我してるんだし、折角久々に帰ってきたんだからのんびりしてれば良いじゃない。大体、怪我人に家事させるほど困ってないから」
「そっすか‥‥」
「もう少ししたら病院連れてくから、待ってて」
「ん」
───煙草喫いてぇ
菱和は怠そうに立ち上がり、自室に向かった
時折、手首が痛む
片手では、煙草もスムーズに喫えない
煙草を咥えて漸く火をつけようとしたところ、携帯が鳴った
手に取ると、つい数時間前に電話をしたばかりのユイの名前が表示されていた
『もしもーし』
「おう、どした?」
『んー、特に用事はないんだけど。なんか気になっちゃってさ、菱和のこと』
「‥‥そっか」
『親に怒られたりしなかった?』
「ああ、少し」
『‥‥だよね。痛い?』
「まぁ‥‥ヒビ入ってるからな」
『‥‥だよね。今日は病院行くの?』
「ああ、これから保険証持ってかなきゃなんねぇんだ」
『そっかぁ‥‥‥‥あんね、後でリサに会ってこようかなって思ってんだけど、もし大丈夫そうなら一緒にどうかな?』
「‥‥どの辺で?」
『リサんち近所なんだ、だから俺んちかリサんちか‥‥外でも良いんだけど。まだ何も決めてなくて』
「ふーん‥‥なら、公園に行けばすぐ会える?」
『あ、そうだね。じゃあ公園に居る!』
「わかった。じゃ、また後で」
『うん!気ぃ付けて来てね!』
「母さん」
「なーにー?」
「ちょっと、行くとこ出来た」
時刻は正午前
あまり眠っていなく、本当はまだだらだらとしていたい気分だったが、友達からの申し出には応じたいと思う
菱和は、出掛ける段取りを始めた
***
ユイは、いつものようにアポ無しでリサの自宅を訪ねた
リサの口元には、絆創膏が貼られている
「よっ!怪我大丈夫?」
「うん、平気。ちょっと切っただけだし」
「そっか‥良かった」
「‥‥あいつは?」
「もう家帰ってるって。さっきも電話で話したけど、大丈夫そうだった」
「‥‥そう」
「‥出れそうなら、公園行かない?」
並んで歩きながら、幼い頃によく一緒に遊んでいた公園へ向かう2人
夏の陽射しが照り付ける、8月の午後
空は快晴で、遠くに飛行機の音が聴こえる
2人は、公園に置いてある日陰のベンチに腰掛けた
時折吹く風が、2人の髪を揺らす
「リサも菱和も、ほんと無事で良かったぁ。‥‥‥‥ごめんね、危険な目に遭わせちゃって」
「あんたが謝ることじゃないでしょ」
「んー‥‥‥‥俺の所為かなぁって、思ってたんだよね」
「何で?」
「俺が菱和を誘わなかったら、菱和も脱退することなかっただろうしなって‥‥」
「それとこれとは別問題だと思うけど」
「‥‥そう、かな」
「そうだよ。あの変な奴の下らない嫉妬でしょ。あいつがあいつの意思で抜けたんだし、それを尊重できない方がガキなんだよ。だから、誰も悪くない」
「‥‥‥‥そっか」
リサは、ユイはおろか菱和に対しても、昨晩のことについて咎める気持ちを抱いてはいなかった
寧ろ、ユイにも、身を呈して自分を護ってくれた菱和に対しても感謝をしていた
「‥‥ありがとね」
「ん?」
「来てくれて」
「‥‥んーん!」
ユイは、にこりとはにかんで見せた
ふと、公園に入ってくる長身の男が目に入る
「──────え、何で‥‥」
「俺が呼んだの!菱和ぁー!」
ユイは菱和に向かって笑顔で手を振った
菱和は顔中に絆創膏が貼られていた
左腕は吊られていて、いつも以上に気怠そうに感じられた
「改めてみるとほんと痛そー‥‥ねぇ、ほんとに大丈夫?」
「病み止め貰ってるし、平気」
包帯を巻いたり腕を吊ったりしていると、見た目には重傷だ
ユイは顔を歪ませていたが、その顔は一瞬にして豹変する
「───あ!俺、忘れ物!取ってくるからちょっと待ってて!」
そう云って立ち上がり、自宅へと一目散に走っていった
久々に見る、忙しく豊かなユイの表情
菱和は、声を掛ける隙すらなかったユイを見送った
「え、ちょっと‥‥」
菱和と共に公園に残されたリサは、何となく気まずさを感じた
それでも、傍らに突っ立っている菱和に声を掛ける
「‥‥座れば」
「‥‥どうも」
菱和はリサの横に腰掛け、怠そうに足を放り投げた
「‥‥‥‥折れてたの?」
「いや、ヒビ入ってた」
「‥‥そう」
「お前は、大丈夫?」
「うん、何ともない」
「そっか。‥‥良かった」
「──────‥‥護ってくれて、有難う。それと‥‥‥‥大怪我させて、ごめん」
「‥‥俺の方こそ、巻き込んじまって悪かった」
「‥ユイも云ってたけど、気にすることない。あんただって被害者でしょ。誰も、悪くないんだから」
「───‥‥‥‥やっぱお前も、良い奴だな」
「え?何?」
「いや、こっちの話」
「‥‥‥‥、いつ頃治るの?」
「一月くらいかかる、かな」
「‥‥そ。早く弾けるようになると良いけど」
突然、菱和はくつくつと笑い出した
リサは怪訝な表情を見せる
「‥‥‥‥何?」
「‥‥一応、心配してくれてんの」
笑みながらこちらを見ている菱和にリサはむっとし、そっぽを向いた
「一応、ね。悪い?」
「別に。‥‥‥‥ありがとさん」
素直ではないリサの労いに、菱和は穏やかに笑った
「ごめ、お待たせ!なんか色々持ってきちゃった!食べよ!飲も!」
ユイは袋に缶ジュースとお菓子を沢山詰め込んで戻ってきた
その袋を菱和とリサの間に置き、中を漁り始め、冷えた飲み物を2人に手渡す
自分も飲み物を持って、乾杯をし出した
3人は、暫く公園で談笑に耽った
夏休みが明ければ、ユイたちはまた屋上に集い出す
ユイも菱和も、恐らく今度からはリサもその中に加わっているような気がし
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