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37 綽名
始業式を迎えた、8月の後半
ユイと拓真はいつものように自転車を漕ぎ、学校へ向かう
学校に着くと、2人は校門の前で止まった
行き交う生徒たちの中、一人の友達を待つ為に
相変わらずだらしなく着崩された制服
鬱蒼と伸びた髪
そして、夏休み前に比べると少し減ったが、未だ痛々しく顔中に貼られた絆創膏と、手首に巻かれた包帯
正しく喧嘩の痕が残る菱和が、気怠そうに歩いてくるのが見える
他の生徒たちが菱和を避けている中、ユイと拓真は菱和に声を掛けた
「おはよ」
「はよっ!」
「‥‥おう」
菱和はいつもの無表情で、2人の挨拶に応えた
「なんかさー、あっちゃんが云ってたけど名字じゃ堅苦しいよね‥‥‥‥そだ!俺、今から菱和のこと“アズ”って呼ぶ!」
ユイが2人の前へ出て、くるっと振り向いた
「“梓”だから、“アズ”?」
「うん!ね、良い?」
「じゃ、俺もあっちゃんに倣って、“ひっしー”って呼ぼうかな」
2人は揃って菱和の顔を見た
菱和は面食らった顔をしていたが、ほんの少し口角を上げた
「‥‥‥‥別に、構わねぇけど」
「よっしゃ!そんじゃあ、俺のことは“ユイ”って呼んで!拓真は‥‥」
「ま、俺は何でも良いんだけど」
「‥‥‥‥“たっくん”?」
菱和が、ボソリと呟く
「え!そっち!?そのあだ名で呼んじゃう!?」
拓真は肩を竦ませて驚いた
「ははは!俺、拓真のこと“たっくん”って呼んだことないー!」
「止めろよ今更、気持ち悪いから」
「アズはほんとに拓真のこと“たっくん”って呼ぶの?」
「‥‥いや、冗談だから」
「だよね、だよね。そんなキャラじゃないよね、ひっしーは」
「‥‥いつかは呼ぶかもしんねぇけど」
「え!!?もー、勘弁してよー‥‥」
「良いじゃん、“たっくん”でも“たくちゃん”でも!上田だってたまに呼んでるじゃん?」
「あいつは完全に俺のこと侮辱してるから」
「そんなことないって!拓真のこと好きなんだから!」
「あーはいはい。何だよ、お前だって地味に“たっくん”のくせに」
「そう云われればそうだね。もう“ユイ”で慣れちゃったから、いきなし“たっくん”って呼ばれてもわかんないかも」
「だろうな。まぁ、ユイは“ユイ”の方が似合ってるかな」
「ほんと?じゃあ、改名しちゃおうかなー」
「それはまずいんじゃない?親父さん、一応たけにいと対で付けてくれたんだろ?」
「うん、そう。でも、誰も“タダシ”って呼んでくれないから‥‥」
「それもなんか淋しい気もするな‥‥」
「でしょー?」
自分の名前あるあるを話したところで、ユイは振り返り、笑顔を向ける
「アズ、行こっ!」
「‥‥ん」
菱和は相変わらず無表情だが、新しく付けられたあだ名で呼ばれ、いつもより幾分穏やかな表情をしていた
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